「うつ」からの回復

【「うつ」からの回復プロセス】

うつ病で休職されている方の話を聴きながら、幾つかの共通課題があることを感じた。

一つは、休職して「体」は休んでいるが、「心」は休めていないということ。

「うつ病が治るのだあろうか、

同僚からはどう思われているのだろうか、

仕事をやっていけるのだろうか、

生活費はどうなるのだろうか、

自分はこれからどうなるのだろうか。」

などの不安や戸惑いを抱えて心が休めないのだ。

どれも難しい課題ではあるが、職場の休職規定や復帰プログラムによって、事業場側から情報提供と協力を得られると、見通しが立つこともある。また主治医や外部相談機関の説明や援助を受けることも役に立つ。遠慮しないでSOSを発信してほしい。

 

二つ目には、休職中はどんなふうにすればいいのか分からないということです。

体調の回復や職場復帰に向けて、

どんなふうに考え行動していったらいいのか。

そういったことについての情報やアドバイスを得られていないことです。

復帰のプロセスを考えると、

前期は休養に専念し、心身ともにリラックスして自然治癒力が十分に働くようにすることが大切です。

後期は体調の回復に合わせて復職の準備を進める。その参考のために休職から職場復帰までのプロセスを下記に示しておきます。このプロセスは、本人は当然ながら家族や事業場側も共通認識が欲しいところです。

 

①主治医の指導を受けながら取り組んでください。

②自分の位置を確認しながら、現在の生活習慣と課題を具体的に考える。

③休職期間は、少なくても3か月から6か月は必要と言われていますが、個人差があります。

④回復のプロセスは一様でなく、良くなったり後退したりする波があるのが、メンタル不調回復の特徴です。焦らず自分のペースを大切にする。

⑤朝の太陽光とリズム運動が、セロトニン神経の活性化と睡眠リズムをつくってくれます。(有田秀穂)

⑥「なぜ自分が」と考えるより、人生の休養期間をもらったと思って棚卸しをする。今までの生活習慣やライフスタイルを見直してみるチャンスです。

⑦ヒューマンネットワークが大切です。家族や友人、先輩や同僚といった相談ができたり、愚痴を聴いてもらえる人の存在が支えになります。メンタルヘルスに理解のある人だとなお助かります。どうしても身近に居ない場合はカウンセリングを利用することです。

 

 

【「うつ」から職場復帰へ】

  プロセス 位置づけ 行 動
1

休養

専念期

回復のため心身の

休養を十分にとる。

 

 何もしないで寝ていてよい。

 腹式呼吸法・自律訓練法などのリラク

 セーションを活用してリラックスする。

   

2

生活

リズム

回復期

昼夜の睡眠リズムの

回復を心がける。

 

 趣味や家事などで体を動かしてみる。

 (ペットと遊ぶ)

 愚痴を聴いてくれる相手をもつ。

 日課表をつけ客観的に振り返る。

 

3

体力

回復期

日中の生活リズムが

安定して、外出もで

きるようになる。

 散歩や買い物などを定期的にやって

 みる。

 不調になった原因や過程をふり返り

 対策について相談する。

4

気力

回復期

通勤を想定し図書館

などへ一日外出でき

る。(リワーク利用)

 

 

 読書やパソコンを使ってみる。

 体力や気力を使っても、翌日に回復

 できるかを確認する。

  考え方の偏りを見直してみる。

 

5

復帰

調整期

主治医と職場から復

帰を認められ準備に

入る。(通勤練習)

 有酸素運動をやってみる。

 再発予防のポイントについて職場と

 話し合っておく。

  一週間で5日間は体を動かせる

6

職場

復帰

仕事は軽減業務から

始めて体を慣らして

いく。

 

 半年から1年後までは体調管理を大

 切にする。

 疲労を溜めない、その日に解消する。 

 無理はしない。

 

休養専念期

「休養専念期」とは、回復のための心身の休養を十分にとることです。病状の急性期の場合もありますので、服薬、休息、栄養を取りながら心身を休めることに専念します。抗うつ薬が効いてくるのには2週間程度かかることがあります。効果や副作用で心配なことは主治医とよく相談してください。また、深呼吸などで不安や緊張をほぐし、心身をリラックスさせます。

 

まずは心身のエネルギーを充電することが重要です。そのためには、ある程度の期間が必要と言われています。しばらくは主治医の指示に従って治療に専念し、十分な睡眠と休養がとれるように心がけてください。

病状によっては、起き上がることが辛くて、一日中寝ていることが続くこともあります。これは身体が自然治癒力を発揮する準備期間と思ってください。

食欲が進まないときは、無理に召し上がる必要はありませんが、消化に良いもの、温かいものを、ゆっくりと頂いてください。

水分はできるだけ取るように心がけてください。常温もしくは温かいものをお勧めします。

仕事や生活のことを考えこんで、苦しくなってきたときは、できるだけ大きくゆっくり深呼吸をしてみてください。

この時期は、夜になっても眠れない、夜中に目が覚めるなどの睡眠が不安定になることがよくあります。その結果、昼夜逆転状態になることもありますが、眠れないことを不安に考えすぎないで、それも回復の過程なのだと思ってください。

それでも苦しいときは、身近の人に話を聞いてもらったり、主治医と服薬について相談してください。

眠れないからといってアルコールを飲むのは、却って睡眠の質を下げ、深い睡眠を妨げますので回復が遅れます。また薬にも悪影響があります。ナイトミルクといわれている温めた牛乳で喉を潤してください。

家族の行事や契約関係の手続きなど大事な判断はできるだけ避け、家事、介護、育児は最低限度の作業時間にしてください。今は、ご自身の心身のエネルギーの充電を最優先してください。

 

生活リズム回復期

「生活リズム回復期」とは、起床と就寝、食事など生活リズムの回復を心がけることです。症状があっても、それなりに落ち着いてきたら、睡眠のリズムを回復させていきます。同じ時間に起き、同じ時間に寝るという、生活リズムを調整していくことです。この睡眠リズムの回復は復職への大きな力となります。逆に夜眠れないまま、無理に復職しても再燃する危険性が高いということです。

 

目覚めのホルモンがセロトニンで、睡眠のホルモンがメラトニンです。睡眠リズムを回復させるには、朝は同じ時間に起きて太陽を浴びながら20分ほど散歩することです。セロトニンの分泌を促し気持ちが落ち着きます。咀嚼や歩くことなどのリズム運動も、セロトニンの分泌に効果があります。朝日を浴びて14~16時間後にメラトニンの分泌が始まります。7時に起きたとすれば21~23時ごろに分泌され眠気が出てきます。朝寝をするとそれだけ分泌が遅れてしまい、メラトニンの分泌も十分ではありません。昼寝は30分以内にとどめて、昼間は眠くなっても頑張れる範囲で起きていることです。

睡眠リズムに効果があるのは、適度に身体を動かすことです。回復状況に合わせてストレッチや散歩をします。身体を動かすという刺激で、自律神経が切り替わり気分転換にもなります。

仕事が出来るようになるだろうかという不安や葛藤が、交感神経や脳を興奮させて眠れなくさせます。呼吸に集中し不安を和らげます。ゆっくり呼吸しながら、呼吸によって動くお腹などの身体の部位に意識を向けます。頭を空っぽにして休めるイメージです。また、気持ちを落ち着かせるエクササイズもお勧めです。自律訓練法やマインドフルネスなどが使われています。専門家に相談して使ってください。

眠れないときに、むりやり「寝なければ」と焦ると、余計に神経が高ぶって眠れなくなることがあります。そういうときは「まあいいや」とあきらめて呼吸に集中します。入眠へのこだわりは不要です。

床に就いて30~60分以上眠れないときは、あれこれ考え過ぎて脳に血液が集まって興奮状態になっています。一度起きて身体を動かし血液を体に戻します。必要なら温かい白湯を飲み水分を補給します。

気力が弱るとダラダラしてしまいますが、なるべく日中は出来ることを探してやってみてください。ちょっとした片付け、猫とじゃれる、金魚の餌やりなど、少しでも身体を動かすと、重い心も動き出します。

パソコンやスマホの利用は日中に行い、眠る前には音楽や読書を楽しむ程度にしておきます。眠れないからと遅くまで映画やウエブサイトを見ていると、パソコンやスマホの光の刺激で、メラトニンが抑制され睡眠リズムを妨げることがあります。

入浴は体調の回復に有効です。ぬるめのお風呂でゆったり温まることで、リラックスし副交感神経が働きます。身体が気持ちいいと感じることで心理的効果もあります。温まったからだが少し冷えてきたら就寝します。深部体温が下がってくると深い睡眠に入ることが出来るのです。

生活リズムが回復してきたら、職場とも定期的な連絡を取り、体調や日常生活について報告や相談をします。

 

体力回復期

「体力回復期」とは、日中の生活リズムが安定してきて、ウオーキングや外出ができるような日常生活の体力を回復させることです。

 

休み明けの仕事でも、だるさや辛さを感じることがあります。まして、長期に休養した後では身体がなまっています。仕事には相応のエネルギーが必要です。復職前には体力や集中力のウオーミングアップが必要になっています。身体を動かすことは健康づくりにもなります。

身体を動かすようなセルフケアを活用する。漸進的筋弛緩法やスクワットなどを試してみてください。軽いリズム運動や有酸素運動で体力の回復を図ります。

散歩やウオーキングを定期的にやってみる。買い物などの外出で疲れの程度や回復状態を観察しながら、徐々に増やしていきます。

可能な範囲で不調になった原因や過程をふり返り、対処の方法について相談することです。原因の分からないこともありますが、心当たりがあれば解決もしくは軽減していきます。解決ができない問題は折り合いをつける方法を考えます。職場に原因がある問題なら上司や担当部署に相談をしておきます。

 

気力回復期

「気力回復期」とは、気力や集中力を回復させることです。職務を想定し、図書館などで、新聞や本を読んで集中できる度合いを確かめます。最初はすぐ疲れるかもしれませんが、休憩をしながら徐々に時間を伸ばしていきます。目標は週に5日ですが、疲労や回復の様子を見ながら行います。

 

気力や集中力が続かないというのは、脳が疲労しているということです。不調の時は、不安や焦りから交感神経が過剰に働き脳疲労を起こします。肩の力を抜き気分転換や意識を他に向けることで脳を休めます。

休養はそのために必要なことですが、体は休んでいても脳が不安で休まらず、休養になっていないことはよくあります。腹式呼吸などで気持ちを切り替えるのは脳を休めるためです。

図書館へ出かけていって、新聞の社説やコラム等を要約したり、まとめる作業をしたりすることで、体力と集中力の訓練になります。

最初はすぐ疲れ、気力や集中力は続きませんが、呼吸法などで気分転換しながら休憩をとって、持続時間を増やしていきます。

ストレスを抱えたとき、どう考え、どう行動するのか、誰に協力や助けを求めるのかなど、休職に至ったことを文書にしてふり返りを行う。

ストレスマネジメントとして、もし似たような状況になった場合でも、不調にならないためどのような対処ができるかが大切です。セルフケアとしての受け止め方や考え方なども、対処するための引き出しを増やしておくことです。

社会的資源として重視されている、人的資源を活用できるようになることも有用です。困ったときには早期に協力を求め相談する。助けを求めるのは弱いからではありません、それは業務遂行能力のひとつです。

 

体力・気力回復期はリワーク(復職支援プログラム)を利用して体力・気力を回復させる方法もあります。メニューが用意されていますので、それに参加することになります。地域によって、病院が行う医療リワーク、地域障害者職業センターの行うリワーク、事業場が独自に行う職場リワークなどがあります。地域障害者職業センターは公的機関で、本人と主治医と職場の三者が協力して行います。通常3~6か月ほどの期間です。

 

復職調整期

「復職調整期」とは、主治医と職場から復職が認められる準備に入ることです。起床や食事などの生活習慣のリズムが整い、一日中外出しても翌日には体力や気力が回復できる状態になれば復職の準備に入ります。

 

客観的な回復状況を把握するため、24時間の「生活記録表」を一週間分作成してみます。これは体力や集中力が回復してきて、もう仕事ができるという自信につながります。また、職場での復職判定の参考になるものです。

勤務した場合と同じ時間スケジュールで、起床し、食事し、勤務時間相当は外出をするという活動を5日間続けて、体調がどうであったかを確認する。身体を動かすことで疲労しても睡眠を取れば回復し、翌日の活動ができることを確かめておくことです。

こういった準備が整ったら、主治医の復職診断書をもらって職場へ復職を願いでます。

復職が認められたら、復職する際の計画書となる「復職プラン」が策定されるので、要望することがあれば事前に話しあいます。

いきなりフルタイムというのは負担が大きいので、半日勤務のような「試し出勤」を一定期間設けることがあります。これについては担当者とよく相談してください。また、回復状況をふまえて主治医から残業・出張・車の運転・作業内容等で、一定の制限が付されることもあります。

 

職場復帰期

「職場復帰期」は、多くの場合「復職プラン」に基づき、試し出勤や軽減勤務から始めて、心身を慣らしてから通常勤務に戻ります。

 

復職すればそれで終了ということではありません。再燃や再発予防のため、定期的な面接やストレスコーピングを続けます。

最初のころは、疲れや気力低下があります。そういった体調変化や業務遂行能力の回復を見ながら、「復職プラン」の修正をすることもあります。現在の働き方を続けることが可能なのかどうかは、様子を見て相談します。

今までの遅れを取り戻そうと無理をしてしまうと、却って不安定になることがあります。ストレスの解消と気持ちの安定を心がけながら、一つ一つ階段を上がるように進めていきます。

業務については、作業量や難易度などの負荷と体調とのバランスを取るため、上司によく相談し必要があれば調整をしてもらいます。

休職中も復職後も同様ですが、一直線のエスカレーターのようにはいきません。回復や落ち込みを繰り返しながら、全体として回復コースに乗っていくということです。また、各期が順番とは限りません、前後することもあります。こだわらないで、出来ることから行っていきます。

復職後6カ月ほどは、ストレスコーピングで対処しながら体調と仕事の調整が大事です。病状によっては1年ほど調整の必要な時もあります。いずれも再発を防ぐためです。

 

~まとめ~

抑うつ症状や適応障害と診断されると、つい、不安から悲観的に考えてしまい、自分がダメな人間に見えてくることもありますが、それは症状がそう思わせているのです。人には自然治癒力やレジリエンス(復元力)が備わっています。症状が治まってくれば元気に回復します。

そのためにも休職から復職後まで、その状況に適した対処が必要です。特に睡眠リズムの回復や体力・気力が回復していないのに、焦って復職すると再燃する危険性が高くなります。個人差もあるので、この期間は数カ月の場合から年度を超えることもあります。現在の症状から、今はどの期にあるかを判断して自分に出来ることから始めてください。

この過程を一人で考えようとするのではなく、主治医の治療や相談を受けながら、体調などに応じて適切な行動を取れるようにしていきます。カウンセリング・エナジー・オフィスでも個別の相談をお受けしています。

 休職の要因となった問題が、解決か軽減できていることが重要ですが、そうならない場合は、自分の受け止め方や考え方を変えてみるのも一つの選択肢です。相手が変わらなければ自分が変わるというのも価値的な行動です。一人で考えると堂々巡りになることもありますので、相談を利用して柔軟な見方や発想を取り入れるチャンスとしてください。